最新の半導体マーケットと地政学リスク

今回は久しぶりに中国の半導体関連情報です。
昨今の日米貿易戦争の火種は少なからずとも我々の中国における半導体事業にも影響を与えはじめています。
猫の目の如く変わるトランプ大統領の政策は一寸先をも読み通すことが困難ですが、とりあえず中間選挙が予測範囲内で着地した現段階で、最新の情報と所見を記載します。

下の一覧表は今年4月のブログ “TMリンクの半導体ビジネス” の中で情報を提供した中国内における半導体新工場の新規建設についてまとめたものを最新の情報にUp date(中国内でのマスコミ報道を弊社で調査)したものです。

(表をクリックすると拡大表示できます。)

前回は17箇所の新規工場でしたが半年あまりで4箇所増え、21箇所となっています。(表のnew) 恐るべし勢いです。
これは習近平(シー.ジンピン)が標榜する国内産業として強化を行うハイテク項目の筆頭にあげているのが半導体で、特に最近の貿易摩擦の懸念からより推進していると考えられます。

折しも11月7日の日経新聞で “半導体 中国自主開発急ぐ” と題し記事を組んでいますが(添付)、ここにもあるように中国での半導体自給率を現在の10%前後から2020年に40%、25年に70%まで引き上げると言う強力な施策です。

例を挙げるならフォックスコンが中国でiPhoneを製造しているけれど、言ってみればほぼほぼ組立屋さんで中核の部品の90%は海外のハイテク品ということです。CPUのみならずメモリー(主記憶-DRAM,Storage-Flash)、カメラ(CMOSセンサ)、パネル…のみならず日本のムラタ,TDK,太陽誘電などが供給する小型コンデンサや フィルター,インダクタンスまでもが海外製ですね。
トランプはこの勢いに懸念を抱き、中国ハイテク産業への技術流出を恐れ、関税というシンプルな施策だけではなく、中国半導体メーカーに対し米国企業との取引を制限する制裁を科すと10月29日に発表しました。今回はまず、福建省でJHICCが建設しているDRAM工場(表のNo.6)に対し米国の半導体製造装置を手がける企業(アプライド,ラム,KLA等)との取引に制限をすると言う時代に逆行する政策を出しました。トランプのことですからまず制裁をかけて何らかの譲歩を引き出し(対北朝鮮も同じですね)、ビジネスライクに米国に有利な条件を引き出す作戦でしょうが、いずれにしても当面は半導体マーケットもトランプに翻弄されるでしょう。

ここでちょっと我々のビジネスに立ち返ると、このトランプのハイテク制裁は現在進行中のTTSEMI南京半導体工場に直接的な影響はありません。
JHICCの如く12インチの先端プロセス工場に使われる設備は新技術のかたまりですが、我々は8インチウェハーという15年以上前に確立されたプロセス技術を使った工場を建設中で、プロセス設備もほとんど中古市場から調達(新品は既に製造してない)します。奇しくも日本は1990年代まで8インチの工場が世界で最も多かった時代を経て、この10年で次々と閉鎖や海外企業の買収が進み、中古装置が中国市場へ沢山、流れています。下記に中国の12インチ,8インチ既存工場を調査し最新情報として一覧表にしましたが、8インチ既存工場の多くは日本から流れた中古設備を使っています。

何故、あえて我々がレガシーなプロセス技術を選択したかは以前のブログでも書きましたが、半導体のネジ、クギと言われるどこにでも使われているアナログ製品に注力しテクノロジーとして0.13ミクロン(最先端は0.01ミクロン以下)であることにより投資リターンのリスクヘッジとマーケットの安定性を優先しました。
実はアナログ技術は日本人が得意でコンピューターのシミュレーションや自動設計では賄えない匠の技術を必要とすることから設計技術での差別化がしやすく、また一個の半導体はとても安くても、例えば14億台のスマホ市場に使われる我々の設計しているアナログ製品は一台のスマホに4個使われている膨大の数量のマーケットであります。
下記のURLを開いて頂くと建設中の南京工場をドローンで撮影した画像が閲覧できます。
https://720yun.com/t/494jedmwOa0?scene_id=15514165&from=singlemessag
** グーグルアースの如くカーソルを動かす事で360°全方位の画像が見れます

ところで半導体市場に目を向けると追い風だった市況に変化が見られます。特にDRAMやNANDと言ったメモリー プロダクトの先行きが不安視されていて価格も下降が止まりません。(参考資料-DRAM市況,NAND市況)

(参考資料:DRAM市況)

(参考資料:NAND市況)

一昨年来よりITの巨人であるグーグル,アマゾン,マイクロソフト,フェイスブックなどがデーターセンターのサーバー用にメモリーを買いあさったのですが、ここに来て少し変化が出てきています。彼らはIT業界の金持ちとしてHDD(ハードディスク)をSSD(NAND Flash)に置き換える等、よりパフォーマンスの高いデーターセンターを標榜し巨額の投資をしてきましたが、昨今のGDPR(EUのデーター保護規則)の発令やフェイスブックの情報漏洩事件で投資の熱が冷めつつあります。加えて画像圧縮技術が予想以上に進み(データーセンターの70%は画像ファイル)サーバーの記憶容量が思ったより大きくならない予測となっています。

追い打ちをかけて11月13日には世界のスマホマーケットがここ数年、14億台で頭打ちになっていたのが遂に減少に転じると報道されました。実際にも1-9月期の出荷台数は前年比-4%となっています。これを受けてアップル株はこの日5%安となりました。
データーセンターもスマホも需要の伸びが無いとすれば半導体マーケットに与える影響は自明です。

 

さてもう一度、先の中国内における半導体新工場新規建設の表を眺めてみますと…DRAM,NANDのメモリー工場が7箇所もあります。これらの工場が立ち上がると受給バランスはどうなるか, 中国勢が国策に乗じて低価格で供給がなされるならば既存のPlayer..東芝、マイクロン(日本の旧エルピーダ含む)などは負け組になる可能性も否めません。こんな因果なマーケットですのでTTSEMI CEOのJoseph Leeには常々、危険な賭に出るな!リスクオンもほどほどにと老婆心を与え、南京において中国国内市場向けアナログデバイスの自社開発&製造(IDM)に注力しています。

小職はFjに入社以来、管理職になるまでずっとDRAM設計に従事してきました。入社当時に携わったのは4k,16k,64kDRAM..K(千)の単位、それが今では4G,16G,64Gというギガの単位、つまり1,000,000倍(100万倍)の容量になりました。技術の進化はすさまじいですね。長いメモリーの歴史が物語るのは一貫してパワーゲーム、投資力と技術力により勝ち組と負け組が決定することです。投資力は投資判断も含んだ最も悩ましいところですが、日本企業のこれまでの多くの失敗例は、市況がいいから投資して2年後ぐらいに設備が稼働する頃には過剰な供給となり価格が下がり赤字となる、つまりメモリーの投資は逆張りをするか、どんな不況でもサバイブできる体力またはバックアップ(サムソンetc.は財閥の支え)が存在するかです。サバイブして寡占状態になるまで戦い数社が市場を牛耳るステージまで堪え忍ぶ、この10年でメモリープレイヤーは寡占状態になったがここに来て中国の内陸地帯でボコボコとメモリー工場建設が進んでいる、さてさて中国の半導体メモリーへの投資は来年以降どんな結果を生むのでしょう? 中国勢が勝ち組?、それとも政治的優位性を使い(トランプ様!)既存プレイヤーが?? ...

 

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